耐震診断の結果(Is値)を決定づける要因は、柱や壁の「強さ(強度)」や「しなやかさ(延性)」だけではありません。構造解析の計算モデルにおいて、実は判定結果を大きく左右する「隠れた主役」が存在します。それが**「減衰定数(げんすいていすう)」**です。
減衰定数とは、一言でいえば**「建物が揺れのエネルギーを吸収し、いかに早く揺れを収束させるか」**を示す指標です。この数値の設定一つで、診断上の「大破」が「中破」に変わるほど、耐震評価において極めて重要な役割を果たします。本記事では、診断モデルにおける減衰の仕組みと、その重要性について解説します。
「減衰」がない建物はいつまでも揺れ続ける
物理学の法則では、一度揺れ始めた物体はエネルギーが消費されない限り揺れ続けます。建物においてこのエネルギーを消費する仕組みが「減衰」です。
1. 内部摩擦と粘性抵抗
建物が揺れる際、構造部材同士の摩擦や、コンクリートの微細なひび割れ、内装材の変形などによって、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されます。これが自然な減衰(履歴減衰)です。
2. 診断モデルでの数値化($h$値)
耐震診断や時系列応答解析では、減衰の度合いを $h$ という記号で表します。
- 一般的なRC造: $h = 0.03$(3%)程度
- 一般的なS造: $h = 0.02$(2%)程度
数値が大きいほど、揺れを早く止める能力が高いことを意味します。
なぜ減衰定数が「判定結果」を左右するのか?
耐震診断の計算プロセスにおいて、減衰定数は「地震の入力エネルギーをどれだけ割り引くか」を決める係数として働きます。
- 応答スペクトルの低減:
地震の揺れの強さを示す「応答スペクトル」は、減衰定数が高くなるほど反比例して小さくなります。つまり、減衰力が高いと判定された建物は、計算上「地震の衝撃をうまく逃がしている」と評価され、部材にかかる負担が軽く見積もられます。
- 非構造部材による「隠れた減衰」:
古い建物でも、頑丈な雑壁(耐震壁ではない壁)や重厚な内装が施されている場合、これらが潰れながらエネルギーを吸収します。診断モデルでこれを適切に評価(モデル化)できるかどうかが、Is値の精度に直結します。
「制震補強」の本質は減衰定数の書き換えにある
耐震補強の多くは「強度」を上げようとしますが、「制震補強」の本質は、この減衰定数を意図的に引き上げることにあります。
A. 粘性ダンパー・オイルダンパーの導入
建物の骨組みにダンパーを設置することで、強制的に減衰定数を $h = 0.10$(10%)以上に引き上げます。
- 効果: 建物の「強度」を無理に上げることなく、地震のエネルギーをダンパーが肩代わりして吸収するため、既存の柱や梁を補強せずに安全性を確保できるケースが増えます。
B. 診断結果の「妥当性」を見極める
診断書を読み解く際、「どのような減衰定数で計算されているか」を確認してください。過剰に高い数値で計算されていれば危険を見逃すことになり、逆に過小評価されていれば、不必要に高額な補強工事を提案されている可能性があります。
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実務担当者が知っておくべき「減衰」のチェックポイント
- 解析モデルの減衰種別:
- 「定数減衰」なのか、変形量に応じて変わる「履歴減衰」なのか。最新の精緻な診断では後者が採用され、より正確な挙動が予測されます。
- 家具・什器の固定と減衰:
- 厳密には構造計算に含まれませんが、大量の書庫やサーバーラックがある場合、その揺れが建物全体の減衰特性に影響を与えることがあります。
- 経年変化による減衰の変化:
- 建物の接合部が緩んだり、コンクリートの劣化が進むと、期待していた減衰力が得られない(あるいは逆に摩擦が増える)ことがあります。
建物の「ブレーキ性能」を正しく見積もる
自動車に例えるなら、強度は「車体の頑丈さ」であり、減衰は「サスペンションとブレーキ」です。どんなに頑丈な車でも、ブレーキが効かなければ衝突の衝撃を逃がすことはできません。
減衰定数を正しく理解し、コントロールすることは、耐震対策のコストパフォーマンスを最大化する鍵です。 診断上の数値に惑わされることなく、建物が持つ「揺れをいなす力」に注目すること。それが、最小の投資で最大の安全を手に入れるための、賢明な経営判断へと繋がります。
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