脱炭素社会の実現に向けて、建設業界で今最も注目を集めているのが「大規模木造建築」です。かつて木造といえば住宅のイメージでしたが、現在はCLT(直交集成板)などの高度なエンジニアードウッドの登場により、中高層のオフィスビルや公共施設を木造で建設することが可能になりました。
しかし、地震大国である日本において、木造で大規模な空間を作るには、鉄筋コンクリート(RC)や鉄骨(S)造とは全く異なる構造上の視点が必要です。サステナビリティ(持続可能性)と最高レベルの耐震性をいかに両立させるか。本記事では、次世代のスタンダードとなる大規模木造建築の構造的課題とその解決策を深掘りします。
CLT(直交集成板)が変えた木造の限界
CLTとは、板の層を互いに直交するように積み重ねて接着した厚型パネルのことです。この技術により、木材は「線(柱・梁)」の素材から「面(壁・床)」の素材へと進化しました。
1. 高い比強度と軽量性
木材はコンクリートに比べて重量が軽く、それでいて強度が極めて高い(比強度が高い)のが特徴です。建物が軽いということは、地震時に建物にかかる「地震力(慣性力)」を大幅に低減できることを意味します。これは耐震設計において非常に有利な特性です。
2. 面で支える強固な剛性
CLTパネル自体が非常に高い剛性(変形しにくさ)を持っているため、RC造の耐力壁のような役割を果たします。これにより、従来の木造では難しかった大空間や高層化が現実のものとなりました。
大規模木造が直面する「3つの構造的課題」
木造ならではのメリットがある一方で、大規模化・高層化に伴う特有のハードルも存在します。
A. 「接合部」のデザインとエネルギー吸収
木造建築の耐震性能は、部材そのものよりも「部材同士のつなぎ目」で決まります。
- 課題: 木材は強い力を受けると、接合部でめり込みや割れが生じやすい特性があります。単に硬く固定するだけでは、大地震のエネルギーを吸収しきれず、一気に破壊が進むリスクがあります。
B. 水平構面の剛性確保
大規模なビルでは、床(水平構面)が地震の揺れを壁や柱に正確に伝える役割を果たさなければなりません。
- 課題: 床面積が広くなればなるほど、床のたわみやズレが構造全体の不安定さを招きます。特にCLTパネル同士のジョイント部分の強度が、建物全体の耐震性を左右します。
C. 遮音・耐火性能とのトレードオフ
木造はRC造に比べて軽量であるため、音を遮る能力(遮音性)が課題となります。
- 課題: 遮音のために床を厚くしたり、コンクリートを敷いたりすると、建物が重くなり、木造最大のメリットである「軽さによる耐震性の向上」を相殺してしまいます。
「伝統×最新技術」による解決アプローチ
これらの課題に対し、日本のエンジニアリングは革新的な解決策を提示しています。
- ハイブリッド構造の採用 「心柱(しんばしら)」としてRC造のコアを作り、その周囲にCLTの木造空間を配置する、あるいは1階をRC造、2階以上を木造とするハイブリッド手法が有効です。これにより、木材の意匠性を活かしつつ、都市部で求められる高度な耐震性と耐火性を確保できます。
- 高機能コネクタ(金物)の開発 地震の衝撃を逃がす「ダンパー機能付き金物」や、高力ボルトを用いた精密な接合部設計が普及しています。接合部で適度に変形を許容しながらエネルギーを吸収する「粘り強い構造」を実現します。
- プレストレッシング技術の応用 CLT壁の中に高強度の鋼棒を通し、あらかじめ圧縮力をかけておく技術(ポストテンション工法)です。地震後も建物が元の位置に自ら戻る「自己復元性」を持たせることが可能になり、被災後の継続使用を容易にします。
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大規模木造導入時に必ずチェックすべき「診断」項目
木造のポテンシャルを最大限に引き出すためには、設計段階からの精密な診断が不可欠です。
- 3Dフレーム解析による動的シミュレーション: 静的な計算だけでなく、実際の地震波を入力して木造特有の揺れ方を検証します。
- 含水率と経年変化の予測: 木材は「生き物」です。乾燥による収縮が接合部の緩みを招かないか、長期的な構造健全性を予測します。
- 防蟻・防腐対策とセットの構造点検: どんなに強固なCLTでも、シロアリや腐朽が進めば耐震性はゼロになります。メンテナンス性と耐震診断が一体化した管理計画を立案します。
木造は「未来を拓く」最強の構造材へ
大規模木造建築は、もはや単なる環境配慮のための選択肢ではありません。最新の耐震技術とCLTのような高性能素材を組み合わせることで、**「軽くて強く、かつ美しい」**という、RCやS造には真似できない独自のレジリエンス(回復力)を持つ建物を生み出すことができます。
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