現代の産業の米である半導体。その製造プロセスはナノメートル単位の極限的な精度を要求されます。半導体工場(ファブ)において、地震による建物の倒壊を防ぐのは当然のこととして、それ以上に深刻な経営リスクとなるのが、地震に至らない程度の「微振動」や、交通振動、さらには地震後の「長引く揺れ」です。
生産ラインが数マイクロメートルでもズレれば、そのバッチの製品はすべて廃棄となり、数億円単位の損失が発生します。本記事では、半導体クリーンルームにおいて「免震構造」がどのように微振動を制御し、圧倒的な生産安定性を実現しているのかを解説します。
精密機器にとっての「震度3」は壊滅的ダメージ
一般のオフィスビルでは「少し揺れた」程度で済む震度3や4の地震でも、半導体製造装置にとっては致命的です。
1. 露光装置(リソグラフィ)の停止リスク
回路を焼き付ける露光装置は、極めてデリケートな防振台の上に載っています。しかし、建物の揺れが防振台の限界を超えると、エラー停止(ダウンタイム)が発生します。一度停止した装置の再起動とキャリブレーションには数日から数週間を要することもあります。
2. 「長周期地震動」による共振の恐怖
海溝型地震などで発生するゆっくりとした長い揺れは、クリーンルーム内の高い天井や搬送システム(OHT)と共振しやすく、搬送中のウェハーが落下するなどの二次被害を引き起こします。
免震構造が実現する「揺れの遮断」メカニズム
半導体工場に免震構造を採用することは、単なる安全対策ではなく「歩留まり(良品率)を維持するための投資」です。
- 加速度の劇的な低減: 免震構造は、基礎と建物の間に積層ゴムなどの免震部材を配置し、地盤の激しい動きを建物に伝えないようにします。これにより、建物が受ける加速度を通常の耐震構造の1/3から1/5程度にまで抑制し、精密機器への衝撃を最小限に抑えます。
- 微振動の吸収(ダンパーの役割): 免震装置と共に設置されるオイルダンパーや粘弾性ダンパーは、地震の揺れだけでなく、工場周辺の道路を走る大型車両などの「交通振動」も吸収する役割を果たします。これにより、クリーンルーム内は常に「静寂な環境」が保たれます。
クリーンルーム特有の「床」の設計戦略
免震構造を採用した上で、さらにクリーンルーム内では「グレーチング床(アクセスフロア)」の剛性が重要になります。
A. ダブルデッキ構造と免震の組み合わせ
重い製造装置を支える構造床と、空流(ダウンフロー)を確保するグレーチング床を分離し、さらに建物全体を免震化することで、床自体の微小な「たわみ」や「共振」を徹底的に排除します。
B. 地震直後の「即時復旧」能力
耐震構造の工場では、震災後に建物の健全性確認や装置の再調整に膨大な時間を費やしますが、免震工場では装置への入力が極めて小さいため、地震直後から生産を再開できる「即時復旧性」が担保されます。これがサプライチェーンを維持する上での最大の競争力となります。
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実務担当者がチェックすべき「環境振動」のポイント
- VC(Vibration Criterion)曲線の測定: クリーンルーム内の床振動が、装置メーカーが要求する「VC-E(極微細加工レベル)」などの基準を満たしているか定期的に計測します。
- 配管・配線の「逃げ(フレキシブル性)」: 免震建物の場合、地震時に建物が大きくスライドするため、工場に引き込まれるガス管や超純水管には、その動きを吸収するための高度なフレキシブルジョイントが必要です。
- 周辺環境の変化への対応: 近隣での工事や交通量の増加が、クリーンルームの微振動環境を悪化させていないか、常時モニタリング体制を構築します。
振動制御は「製品クオリティ」そのもの
半導体ビジネスにおいて、建物は単なる「箱」ではなく、製造装置の一部です。振動をコントロールできない建物は、どんなに最新鋭の装置を導入しても、その性能を100%引き出すことはできません。
「揺らさない」ことが、最大のコストダウンになります。 免震構造によって微振動を克服したクリーンルームは、災害に強いだけでなく、日常の生産プロセスにおいても他社を圧倒する安定性と高歩留まりを約束します。
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