大規模な地震が発生した際、私たちの関心はどうしても「建物の倒壊」に向けられがちです。しかし、震災後に多くのオーナーを絶望させるもう一つの致命的な被害があります。それが、地盤の液状化や側方流動、圧密沈下によって建物が不均一に沈む**「不同沈下(ふどうちんか)」**です。
構造体そのものが無事であっても、建物がわずか数パーセント傾くだけで、ドアが開かない、配管が逆流する、さらには居住者がめまいや吐き気を訴えるといった深刻な事態に陥ります。そして何より、一度傾いた建物を元に戻す「沈下修正工事」には、数千万円から数億円という、新築時を上回るほどの莫大なコストと時間がかかります。
本記事では、建物の重量と足元の地層構成がどのように不同沈下を引き起こすのか、そのメカニズムと事前評価の重要性を深掘りします。
なぜ「不同」に沈むのか? リスクを増幅させる3つの要因
建物が均等に沈下する(等沈下)のであれば、構造的なダメージは限定的です。しかし、現実の地盤は複雑であり、以下の要因が絡み合うことで「傾き」が発生します。
1. 地層構成の不均一性(傾斜基盤)
建物の直下の地盤が必ずしも水平に積み重なっているとは限りません。敷地の右側は強固な砂れき層が浅い位置にあるのに、左側は軟弱な粘土層が深く続いているといったケースです。この場合、軟弱な層が厚い側がより大きく沈み込み、建物は徐々に傾いていきます。
2. 建物重量(荷重)の偏り
物流センターや工場のように、一部に重量物(大型機械やラック)が集中する建物や、増改築によって左右の重量バランスが崩れている建物は要注意です。重い側に大きな接地圧がかかり、地震の揺れによって地盤が揺すられることで、その荷重差が沈下量の差となって現れます。
3. 液状化と側方流動
砂質の地盤で地下水位が高い場所では、地震の振動により地盤が液体状になる「液状化」が発生します。特に川沿いや海沿いでは、液状化した土砂が側方の低い方へ流れ出す「側方流動」が起き、建物の土台が引きちぎられるように沈下・移動します。
不同沈下がもたらす「建物の機能不全」
建物が傾斜すると、単に「見た目が悪い」だけでは済まない実害が発生します。
- 建具の不具合(1/1000以上の傾き): ドアや窓の建付けが悪くなり、避難経路の確保が困難になります。
- 設備配管の破断: 勾配が変わることで排水が逆流し、ガス管や水道管のジョイント部が破断して火災や水損のリスクを跳ね上げます。
- 居住者の健康被害: 人間の三半規管は非常に敏感であり、6/1000(1メートルで6ミリ)程度の傾きでも、長期間過ごすことで頭痛や吐き気、平衡感覚の異常をきたすことが医学的に証明されています。
事前評価の急所:ボーリングデータと建物荷重の照合
不同沈下を防ぐためには、設計段階や既存ビルの管理において「足元のカルテ」を正確に把握しておく必要があります。
A. 圧密沈下計算の再評価
軟弱な粘土層が厚い場合、地震の揺れによって土の中の水が抜け、地盤が凝縮する「圧密」が加速します。過去の地質調査資料(ボーリング柱状図)を引っ張り出し、現在の建物重量に対して沈下抑制の安全率がどれだけ残っているかを数値化します。
B. 摩擦杭と支持杭の混用リスク
古い建物や増築部では、一方が硬い層まで届く「支持杭」、もう一方が地盤との摩擦力で支える「摩擦杭」という混用が見られることがあります。地震時にはこの二つの挙動が全く異なるため、接合部に亀裂が入り、致命的な不同沈下を招く「弱点」となります。
貴社の保有ビルや工場において、「埋立地や元河川の近くに建っている」「過去の地震で既にわずかな床の傾きを感じる」という不安はありませんか? 地質データと建物構造の相関を解析し、地震後の不同沈下リスクを判定する**「地盤・構造一体型診断」を知りたい方は、無料で3分で完了する「耐震ウェブ診断」をご利用**ください。
▶︎ [https://taishin-senmon.jp/diagnosis/ ]
不同沈下を防ぐ・治すための技術的アプローチ
リスクが高いと判定された場合、あるいは既に傾きが始まっている場合に検討すべき対策です。
- 地盤改良(薬液注入・深層混合処理): 建物の周囲や直下の地盤を化学的・物理的に固め、液状化や圧密を防ぎます。既存建物の下を掘らずに横から薬剤を注入する最新工法も普及しています。
- 鋼管杭によるアンダーピニング工法: 既に傾いた建物を修正する手法です。建物の下を掘り、ジャッキと鋼管杭を使って強固な支持層から建物を「持ち上げ直す」抜本的な対策です。
- 耐震スリットと構造的分離: 本棟と増築棟の間に明確な隙間(エキスパンションジョイント)を設け、万が一沈下や揺れ方の差が生じても、建物同士がぶつかり合って破壊されるのを防ぎます。
地上の強さは、地下の安定に依存する
「耐震診断」を受けて骨組みが丈夫だと太鼓判を押されても、その建物が立つ「地面」が動いてしまえば、すべての努力は無に帰します。不同沈下対策は、建物の寿命を延ばし、震災後の事業継続(BCP)を確実にするための、いわば「建物の足腰」を整える作業です。
地層の構成を知り、荷重のバランスを整え、万が一の沈下シナリオを想定しておくこと。 この「目に見えない部分への投資」こそが、災害大国日本において真に価値のある不動産管理のあり方です。
貴社は、この**「不同沈下」という震災後の静かなる脅威をクリアにし、いかなる揺れの後でも垂直に立ち続ける誇り高き資産**を、いつ、確立されますか?



