冷凍・冷蔵倉庫は、現代のコールドチェーンを支える不可欠なインフラです。しかし、その内部温度をマイナス20度からマイナス40度に保つという特殊な運用環境は、建物の「足元」である基礎部分に、通常の建築物では考えられない過酷な負荷を与え続けています。
特に深刻なのが、土中の水分が凍結と融解を繰り返すことによって引き起こされる**「凍結融解(とうけつゆうかい)」**の問題です。これが進行すると、地震が発生した際に建物が本来の耐震性能を発揮できず、致命的な沈下や倒壊を招く恐れがあります。本記事では、冷凍倉庫オーナーが直視すべき「見えないリスク」とその対策について解説します。
「凍上(とうじょう)」が基礎を押し上げるメカニズム
冷凍倉庫の床下では、防熱材を通したわずかな冷気の漏れが、長期間にわたって地面を冷やし続けます。これにより、地中の水分が氷の塊(アイスレンズ)となり、体積が膨張して地盤を押し上げる**「凍上(frost heave)」**が発生します。
- 構造体への不均等な圧力
地盤は均一に凍るわけではありません。柱の直下や配管の周辺など、温度変化が激しい場所で局所的に凍上が起きると、基礎が不均等に持ち上げられます。これにより、建物の骨組みに設計段階では想定していなかった「ねじれ」や「引き抜き」の力が発生します。
- 基礎コンクリートの劣化(凍害)
コンクリートの微細な隙間に入り込んだ水分が凍結して膨張すると、コンクリートを内部から破壊します。これを何度も繰り返すことで、基礎や床スラブの強度は著しく低下し、地震の揺れを支える力が失われていきます。
地震時に牙を剥く「融解沈下」の恐怖
凍結した地盤は、一見するとカチカチに固まっていて強固に見えるかもしれません。しかし、地震動による摩擦熱や、停電による冷却停止などで地中の氷が解けると、事態は一変します。
- 液状化に似た現象の発生 氷が解けると、地中に大量の水が放出されます。この水分が逃げ場を失うと、地盤の支持力が一瞬にして失われる「融解沈下」を引き起こします。地震の揺れと同時にこの現象が起きれば、建物は耐震補強の有無にかかわらず、大きく傾斜したり沈み込んだりしてしまいます。
- 支持基盤の「空洞化」 凍結と融解のサイクルにより、土粒子が流出してしまうと、基礎の下に目に見えない「空洞」が形成されます。地震時にこの空洞が崩落すれば、基礎が宙に浮いた状態となり、建物の倒壊に直結します。
建物を壊さずに内部を視る「最新の調査手法」
冷凍倉庫の基礎は厚い床スラブと断熱材に覆われているため、目視での点検は不可能です。そこで、高度な技術を用いた非破壊検査が重要となります。
- 地中レーダー探査(GPR)
- 電磁波を床面に照射し、その反射から床下の空洞や、異常な氷の塊(アイスレンズ)の存在を特定します。稼働中の倉庫内でも短時間で実施可能です。
- 埋設温度センサーによる定点観測
- 基礎下の地盤温度を継続的にモニタリングします。地盤が氷点下を下回っていないか、あるいは異常な温度勾配がないかを監視することで、凍上が始まる前に予兆を捉えることができます。
- 弾性波診断
- 微細な振動を構造体に与え、その伝わり方からコンクリート内部の劣化状況や支持力の変化を推定します。これにより、地震時に建物がどのように揺れるかを高い精度でシミュレーションできます。
貴社の冷凍倉庫において、「床面にわずかな段差やひび割れがある」あるいは「建設から20年以上、地中の状況を調査していない」という場合。凍結融解による隠れた耐震リスクを数値化し、事業継続(BCP)への影響を知りたい場合は、無料で3分で完了する**「耐震ウェブ診断」をご利用**ください。
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壊滅的被害を防ぐ「予防保全」の戦略
凍結融解によるリスクが判明した場合、早期の対策がコストを最小限に抑える鍵となります。
- 床下ヒーティングの最適化 多くの冷凍倉庫には凍上防止用のヒーターが埋設されていますが、経年劣化で機能不全に陥っているケースがあります。これを最新の省エネ型ヒーターへ更新、または設定温度を最適化することで、地盤の凍結を根本から防ぎます。
- 止水・空洞充填注入 床下に空洞が見つかった場合、特殊な樹脂やグラウト材を注入し、地盤を固めます。これにより、地震時の融解沈下を防ぎ、基礎の支持力を回復させます。
- 断熱レイヤーの再構築 床スラブの断熱性能が低下している場合、表面から高性能な断熱材をオーバーレイすることで、地盤への冷気伝達を遮断し、凍結サイクルの進行を食い止めます。
結論:コールドチェーンの「断絶」を防ぐために
大規模冷凍倉庫における地震対策は、建物の「上」を強くするだけでは不十分です。「下」に潜む凍結融解という特殊なリスクを理解し、科学的な調査に基づいたメンテナンスを行うこと。これこそが、食のインフラを守る企業の社会的責任(CSR)であり、同時に不測の事態における数億円規模の損失を回避する最善の経営判断です。
貴社は、この**「足元で静かに進行する氷」のリスクを正確に把握し、地震後も冷気を絶やすことのない強靭な倉庫**を、いつ、確立されますか?
次回の提案: 冷凍倉庫の「断熱パネル」自体の耐震性(地震時の脱落防止)についても、独自の評価基準がございます。基礎と併せて、施設全体のレジリエンス(復元力)を高めるトータルプランをご提案可能です。



