🏗️ 鉄骨造建築物の宿命か? 溶接部の経年劣化が引き起こす「脆性破壊」の予兆と対策

日本の都市風景を形作る鉄骨造(S造)建築物。その強靭なしなりと高い意匠性は、多くのオフィスビルや商業施設、工場で採用されています。しかし、鉄骨造には切っても切り離せない「宿命」とも呼べる弱点が存在します。それが、柱と梁を繋ぐ**「溶接部」において発生する「脆性(ぜいせい)破壊」**です。 

1995年の阪神・淡路大震災では、倒壊しなかった鉄骨ビルであっても、後に調査すると溶接部がガラスのようにパリンと割れている衝撃的な事例が多発しました。そして今、高度経済成長期からバブル期に建てられた多くの建物が、経年劣化という新たなリスクを抱えて「次の巨大地震」を待っています。本記事では、目に見えないところで進行する溶接部の劣化と、破滅的な被害を避けるための対策を深掘りします。 

 

「脆性破壊」:予告なき崩壊のメカニズム 

通常の鉄は、強い力がかかると「伸びる(塑性変形)」ことでエネルギーを吸収します。これを「延性(えんせい)」と呼びます。しかし、特定の条件下では、鉄が全く伸びることなく、一瞬にして破断してしまうことがあります。これが「脆性破壊」です。 

  1. 熱影響部(HAZ)のジレンマ

溶接は数千度の熱で鉄を溶かして接合しますが、この時、接合部周辺の鉄(熱影響部)は組織が変化し、非常に硬く、そして「もろく」なります。 

  • リスク: 地震の巨大なエネルギーが集中した際、この「もろい部分」がクッションの役割を果たせず、衝撃を逃がせずに一気にひび割れが走ります。 
  1. 経年劣化が加速させる「初期欠陥」の成長

建築当時の溶接技術や検査基準は、現在ほど厳格ではありませんでした。微細な「ブローホール(気泡)」や「スラグ巻き込み」といった初期欠陥が、30年、40年という歳月の中で、交通振動や風圧力による微細な揺れ(疲労)を受け続けることで、ゆっくりと大きな亀裂へと成長していきます。 

 

「予兆」を見逃さない:建物が発するSOSサイン 

脆性破壊は一瞬で起きますが、その前段階である「溶接部の劣化」には、いくつか微細な予兆が現れることがあります。 

  • 塗装の「浮き」と「錆汁(さびじる)」: 鉄骨の接合部を覆う塗装に、細かなひび割れや、茶褐色の錆が線のように漏れ出している場合、内部の溶接部で亀裂が進行し、そこから水分が侵入している有力な証拠です。 
  • 不自然な「金属音」: 強風時や大型車両が建物の横を通った際、接合部から「パキッ」「キン」といった高い金属音が聞こえる場合、すでに溶接部の一部が破断し、部材同士が干渉している可能性があります。 
  • ボルト周りの異変: 溶接とボルトを併用している接合部で、ボルトの頭が飛んでいたり、ワッシャーが浮いたりしている場合、溶接部の剛性が失われ、ボルトに過剰な負担がかかっているサインです。 

 

「真の健全性」を知るための非破壊検査 

目視点検で「異常なし」とされても、溶接内部の亀裂は隠れています。精密な構造健全性評価には、以下の特殊な検査が不可欠です。 

  • 超音波探傷試験(UT): 超音波を鉄骨内部に送り込み、その反射波から内部の亀裂や欠陥をミリ単位で特定します。建物の「エコー検査」と言える手法です。 
  • 浸透探傷試験(PT): 表面に特殊な赤い染料を塗り、目に見えないほど細かな表面クラックを浮き彫りにします。 
  • フェライト量測定: 溶接金属の組織を分析し、将来的に脆性破壊を起こしやすい状態(脆化)になっていないかを科学的に判定します。 

 

貴社の鉄骨造ビル・工場において、築30年以上が経過しており、溶接部の健全性に不安がある場合。また、脆性破壊を防ぐための最新の補強案と、そのコストバランスを知りたい場合は、無料で3分で完了する**「耐震ウェブ診断」をご利用**ください。 

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宿命を克服する:溶接部を守る「3つの補強戦略」 

脆性破壊のリスクが判明しても、建物を建て替える必要はありません。最新の補強技術は、ピンポイントで弱点を克服することを可能にしています。 

  1. 接合部の「添え板(スプリットティー)」補強

溶接部だけに頼らず、高力ボルトを用いた強固な鋼板(添え板)を追加することで、応力の伝達経路を二重化します。万が一、溶接が破断しても、ボルト接合部が建物の崩壊を食い止めます。 

  1. 極軟鋼(ごくなんこう)ダンパーの導入

建物全体に「非常に柔らかい鉄」で作られたダンパーを設置します。地震のエネルギーをこのダンパーが真っ先に「伸びる」ことで吸収し、硬くて脆い溶接部へ力が伝わる前に逃がしてしまいます。 

  1. 炭素繊維による「靭性(じんせい)」の付与

溶接部周辺に炭素繊維シートを巻き付ける、あるいは特殊な樹脂で接着することで、鉄骨の「粘り」を外部から補強します。火気を使わない工法のため、工場やオフィスを稼働させながらの施工が可能です。 

 

結論:目に見えない「接合部」に企業の未来を委ねない 

鉄骨造の建物において、溶接部は「血管の繋ぎ目」のようなものです。どんなに強靭な筋肉(部材)を持っていても、繋ぎ目が一瞬で切れてしまえば、建物はその機能を失います。 

経年劣化した溶接部のリスクを正しく理解し、定期的なモニタリングと適切な補強を行うこと。これは、単なる建物のメンテナンスではなく、貴社の**「事業継続」という最重要ミッション**を遂行するための不可欠なプロセスです。 

貴社は、この**「サイレント・リスク」を科学的に排除し、巨大地震時にも決して「折れない」強靭な建物**を、いつ、手に入れられますか? 

 

次回の提案: 溶接部の補強と併せて、近年注目されている「鉄骨の防錆・防食塗装の最新トレンド」についても解説可能です。建物の長寿命化をトータルで実現するためのロードマップ作成をお手伝いいたします。