耐震診断の結果を受け取った際、多くのオーナー様が真っ先に目を向けるのは「Is値(構造耐震指標)」という数値です。一般的に0.6以上であれば「倒壊の危険性が低い」と判定されますが、実はこの数値だけで建物の本当の安全性を確信するのは時期尚早です。
地震の衝撃を受けた際、建物が「ポッキリと折れる」のか、あるいは「しなやかに耐え忍ぶ(粘る)」のか。それは数値化された強度だけでなく、建物の**「形状のバランス」**に大きく左右されます。本記事では、診断書の裏側に隠された「形のリスク」と、真の耐震性を左右する「粘り」の正体について深く掘り下げます。
「強度」と「粘り」:耐震性を支える二本の柱
耐震設計には、大きく分けて二つの考え方があります。一つは地震の力に対して真っ向から「硬さ」で対抗する戦略。もう一つは、建物をあえて変形させることでエネルギーを吸収する「粘り」の戦略です。
1. 「粘り(延性)」とは何か?
専門用語では「延性(えんせい)」と呼びます。鉄筋コンクリート造の建物において、地震の大きなエネルギーを柱や梁が「ゆがむ」ことで熱エネルギーとして逃がす能力のことです。
- リスク: 粘りがない建物は、限界を超えた瞬間に前触れもなく崩壊します。これを「脆性破壊(ぜいせいはかい)」と呼び、1995年の阪神・淡路大震災で多くのビルが倒壊した主原因となりました。
2. Is値の構成要素「E0」の正体
Is値は、強度の指標(C)と、この粘りの指標(F)を掛け合わせて算出されます。
$$Is = E0 \times G \times SD \times T$$
ここで重要なのは、強度が低くても「粘り」が非常に高ければ、計算上のIs値は高くなるという点です。しかし、古い建物においてはこの「粘りの評価」が実際の挙動と乖離することがあるため注意が必要です。
Is値を盲信できない「形状のリスク」:偏心と剛性率
数値が0.6を超えていても、建物の形が歪(いびつ)であれば、地震の揺れは特定の箇所に集中し、そこから破壊が始まります。これが「形状指標(SD指標)」として診断書に反映されるべき項目です。
A. 「偏心」という見えない捻じれ
建物の「重心の位置(重さの中心)」と「剛心の位置(硬さの中心)」がズレている状態を「偏心(へんしん)」と呼びます。
- 例: 1階が店舗で大きなガラス窓ばかり(片側が柔らかい)、もう片側がコンクリートの壁(硬い)という建物です。
- 挙動: 地震が来ると、建物はコマのように「捻じれる(ねじれる)」動きをします。この捻じれは計算以上の負荷を特定の柱に与え、一気に破壊へと導きます。
B. 「セットバック」と垂直方向の不連続性
上階に行くほど床面積が小さくなる「セットバック」がある建物や、特定の階だけ天井が高い「ピロティ」構造も、形状リスクが高いと言えます。
- リスク: 揺れが特定の「柔らかい階」に集中し、その階だけが押し潰される「パンケーキ崩壊」を招く恐れがあります。
「計算上の安全」を現実の「安心」に変える診断の読み解き方
診断結果を読み解く際は、以下の3つの指標をセットで確認することが、真のリスクを見抜く鍵となります。
- 「第2種構造要素」の有無をチェック:
- 建物を支える主要な柱ではないものの、壊れると建物全体に悪影響を及ぼす部材がどれだけあるか。
- 「保有水平耐力」の計算詳細:
- 建物がどれだけ傾いても耐えられるかという「変形能力」を、動的なシミュレーション(時刻歴応答解析)で確認しているか。
- 「経年指標(T指標)」の実態:
- コンクリートの「中性化」や「ひび割れ」がどれほど進んでいるか。どんなに優れた形状でも、素材が劣化していれば「粘り」は発揮されません。
貴社のオフィスや工場の耐震診断書には、「数値上のIs値」だけでなく、「形状による捻じれのリスク」や「部材の粘りの欠如」について、納得のいく説明が記載されていますか? 目に見える数値の裏側にある構造的弱点を可視化し、真に実効性のある補強案を提示する**「構造バランス精密解析」を知りたい方は、無料で3分で完了する「耐震ウェブ診断」をご利用**ください。
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形状リスクを解消するための「戦略的補強」
もし形状にリスクがある場合、ただ闇雲に壁を増やすだけでは逆効果になることすらあります。
- バランスの調整(偏心の解消):
あえて「柔らかい側」を補強し、「硬い側」にスリット(隙間)を入れることで、建物の重心と剛心の位置を近づけ、捻じれを抑制します。
- 制震装置の導入:
粘りが不足している古い建物には、地震のエネルギーを吸収する「オイルダンパー」や「粘弾性ダンパー」を設置します。これにより、建物を壊さずに「しなやかに受け流す」性能を後付けすることが可能です。
診断書は「健康診断の結果」ではなく「治療の設計図」
Is値0.6という数値は、あくまで一つの目安に過ぎません。建物の「粘り」がどれくらいあるのか、そして「形状の歪み」が揺れをどう増幅させるのか。これらを総合的に判断して初めて、本当の地震リスクが見えてきます。
「強さ」だけで耐える時代は終わりました。 これからの不動産管理には、建物の個性を理解し、その形に合わせた「しなやかさ」をデザインする視点が求められます。科学的な根拠に基づいたバランスの取れた建物こそが、次の巨大地震において、社員の命と企業の未来を守り抜く唯一の盾となります。
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