地震が発生した際、ある建物はほとんど無傷なのに、すぐ隣にある同じような高さの建物が激しく損傷している――このような不可解な現象を目の当たりにすることがあります。この明暗を分ける最大の要因の一つが「共振(きょうしん)」です。
特に中層ビル(概ね5階から10階建て程度)は、日本の都市部に多く存在する地盤の揺れのリズムと、建物自体の揺れのリズムが一致しやすく、共振による被害を受けやすいという特徴があります。本記事では、地震学の観点から「地盤」と「建物」の危険な関係を解き明かし、共振を回避するための設計戦略について解説します。
「共振」のメカニズム:なぜ揺れは増幅するのか
すべての物体には、揺れやすい固有のリズム(固有周期)があります。地震の揺れと建物の周期が重なると、エネルギーが蓄積され、揺れは数倍から十数倍へと劇的に増幅されます。
1. 地盤の固有周期(表層地盤増幅特性)
地盤は、その硬さや堆積層の厚さによって、特定の周期の波を通しやすく、増幅させやすい性質を持っています。
- 硬い地盤: 短い周期(ガタガタという速い揺れ)を増幅させやすい。
- 柔らかい地盤: 長い周期(ゆさゆさというゆっくりした揺れ)を増幅させやすい。
2. 中層ビルの固有周期
建物の周期は、おおよそ「0.02 × 階数(秒)」という簡易式で推定されます。
- 10階建てのビルの場合、周期は約0.2秒から0.3秒程度になります。
- 多くの都市部で見られる「やや軟弱な沖積地盤」の卓越周期もこの範囲に重なることが多く、中層ビルにとって共振は極めて身近な脅威なのです。
共振が招く壊滅的なダメージ:構造体の疲労と破壊
共振状態に陥った建物は、地震の入力エネルギーを効率的に「吸収」してしまい、構造限界を容易に突破します。
- 「しなり」の限界突破: 共振によって階と階のズレ(層間変位)が設計想定を超えると、柱や梁の接合部が耐えきれず、コンクリートの爆裂や鉄筋の破断を招きます。
- 繰り返しの応力による疲労: 共振は揺れの回数を増やします。一度の大きな衝撃だけでなく、何十回、何百回と繰り返される過大な変形が、建物の「粘り(延性)」を奪い去ります。
- 非構造部材の飛散: 構造体は無事でも、共振によって加速された上層階の揺れにより、内装材や天井、外壁タイルが一斉に剥離・落下するリスクが高まります。
共振を回避するための「デチューニング(周期ずらし)」戦略
安全な建物を実現するためには、地盤の周期と建物の周期を意図的に「ずらす」設計が必要です。
A. 剛性を高めて「短周期化」する
建物の柱を太くしたり、耐震壁を増設したりして、建物を「硬く」します。
- 効果: 固有周期を短くし、地盤の卓越周期から遠ざけます。比較的硬い地盤に建つ中層ビルに有効な手法です。
B. 免震・制震による「周期のコントロール」
- 免震構造: 建物の足元に積層ゴムを入れ、建物を意図的に「ゆっくり」揺らします。建物の周期を地盤の周期から大きく引き離し、地震エネルギーの入力を遮断します。
- 制震装置: オイルダンパー等を設置し、揺れのリズムに関わらずエネルギーを吸収します。共振が起きても、増幅される前にエネルギーを「熱」に変えて逃がします。
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既存ビルでもできる「共振対策」のステップ
- 地盤の卓越周期の特定: 敷地内で微動計測を行い、その土地がどの周期で揺れやすいかを正確に把握します。
- 建物の実測固有周期の計測: 常時微動計測により、設計図面上の数値ではなく「現在の建物の揺れ方」を実測します。
- 付加質量や制震補強の検討: 屋上に重りを置いて周期を調整する(TMD)や、特定の階にダンパーを追加することで、共振のピークを抑制します。
地盤との「対話」が建物の命運を決める
建物の強さだけを追求する時代は終わりました。これからの耐震設計に求められるのは、その建物が建つ「地面」がどのように歌う(揺れる)のかを聴き、それに調和しないリズムを建物に与えることです。
共振を避けることは、地震の力を正面から受け止めない「賢い」防御法です。 科学的なデータに基づき、地盤と建物の周期を戦略的にマネジメントすること。これこそが、大地震の際にも「揺れの増幅」を許さず、資産と人命を守り抜くための最強の処方箋となります。
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