東京、大阪、名古屋。日本の大都市の多くは、厚い堆積層に覆われた「盆地(平野)」に位置しています。この地形的特徴が、遠方の巨大地震によって発生した揺れを増幅・長時間化させ、大規模建築物に深刻なダメージを与える**「長周期地震動」**の舞台となります。
かつては「倒壊しなければ安全」と考えられていた大規模ビルですが、近年の研究により、数分間にわたる長時間の揺れが、建物の骨格に「目に見えない疲労」を蓄積させることが分かってきました。本記事では、都市盆地特有の揺れのメカニズムと、それが建物部材に与える劣化の正体について解説します。
「都市盆地」が揺れを逃がさない理由
震源から放出された地震波のうち、周期の長い波(長周期地震動)は、硬い岩盤の中では減衰しにくく、遠くまで届く性質があります。
1. 堆積層による増幅と反射
都市の下にある柔らかい堆積層(粘土や砂の層)に長周期の波が入ると、波のスピードが落ちる代わりに振幅が大きく増幅されます。さらに、盆地の縁(山との境界)で波が反射し、お椀の中で水が揺れ続けるように、いつまでも揺れが収まらない現象が起きます。
2. 高層ビルとの「共振」
高層ビルや大規模工場は、ゆったりとした揺れのリズム(固有周期)を持っています。盆地で増幅された波の周期と建物の周期が一致すると、建物はブランコを漕ぐように大きく、そして長く揺れ続けます。
「長時間の揺れ」が招く部材劣化のプロセス
一般的な地震対策は「一瞬の巨大な力」に耐えることを主眼に置いていますが、長周期地震動の脅威は「繰り返しの回数」にあります。
- 鉄骨接合部の「金属疲労」: 数分間、数百回にわたって繰り返される「曲げ」と「戻り」の動作により、鉄骨の溶接部に微細なひび(クラック)が生じます。一回の地震では破壊に至らなくても、次の地震で一気に破断する「累積損傷」が進行します。
- コンクリートの「ひび割れ進展」: 揺れが続くことで、一度入ったひび割れが徐々に深く、長くなります。これにより、内部の鉄筋が外気に触れやすくなり、将来的な腐食(中性化)を早める原因となります。
- 制震装置の「オーバーヒート」: 揺れのエネルギーを吸収するダンパー(オイルダンパー等)は、長時間作動し続けると摩擦熱で高温になります。性能限界を超えると減衰力が低下し、建物の揺れを制御できなくなるリスクがあります。
累積ダメージから建物を守るための設計戦略
「揺れに耐える」だけでなく、「揺れを早く止める」という視点が、部材の寿命を延ばす鍵となります。
A. 「高減衰」性能の付加
建物に高い減衰性能(揺れを吸収する力)を持たせることで、共振による増幅を抑え、揺れが続く時間を物理的に短縮します。これにより、部材にかかる繰り返しの負荷回数を劇的に減らすことができます。
B. 「時刻歴応答解析」による累積損傷評価
設計段階や診断段階で、南海トラフ巨大地震などの想定波形を数分間分入力し、主要部材が累積的な疲労で破断しないかを検証します。
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震災後に実施すべき「ダメージ評価」のポイント
- 溶接部の非破壊検査: 長周期の揺れを経験した後は、目視では分からない溶接部のクラックを超音波などで検査する必要があります。
- 制震ダンパーの作動履歴確認: ダンパーがどれだけ熱を持ち、どれだけ変位したかの記録(インジケーター等)を確認し、交換やメンテナンスの要否を判断します。
- エレベーターレールの歪み点検: 長時間揺れにさらされたエレベーターの昇降路は、目に見えない歪みが生じやすく、後の重大事故に繋がる恐れがあります。
都市のビルは「疲労」と戦っている
大規模建築物にとって、地震は「一過性のイベント」ではなく、その後の建物の寿命を左右する「蓄積されるダメージ」です。特に都市盆地においては、そのリスクが数倍に膨れ上がります。
建物の強さを過信せず、揺れによる疲労を最小限に抑える仕組みを持つこと。 科学的な解析に基づき、長時間の揺れをいなす「しなやかさ」を備えることが、震災後も資産価値を維持し、事業を継続するための唯一の道です。
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