過去に発生した免震・制震装置のデータ改ざん問題は、建築業界のみならず、社会全体の「安全に対する信頼」を大きく揺るがしました。企業にとって、自社ビルの耐震性能は従業員や顧客の命を預かる「器」であり、そのデータに一点の曇りも許されません。
しかし、高度に専門化された耐震工事の現場において、発注者が自ら施工品質を見極めることは極めて困難です。今、企業に求められているのは、供給側(施工者)の自己申告に依存しない、「第三者監査」による透明性の確保です。
データ改ざんが企業にもたらす「致命的なリスク」
「施工会社に任せていたから知らなかった」という弁明は、現代のガバナンスにおいては通用しません。
- 工作物責任(民法717条): 万が一の倒壊時、施工ミスが原因であっても、所有者は「無過失責任」を問われる可能性があります。改ざんされたデータに基づいた運用は、法的防御を無効にします。
- ESG投資・社会的信用の失墜: コンプライアンス違反が発覚すれば、投資家からの資金引き揚げやブランド価値の暴落を招きます。
- 莫大な是正コスト: 竣工後の不備発覚は、営業を継続しながらの再工事となり、当初の数倍のコストと時間がかかります。
透明性を担保する「第三者監査」の3つの防壁
施工品質を「性善説」ではなく「仕組み」で守るために、以下の監査体制が必要です。
1. 材料・製品の製造工程における抜き打ち検査
免震ゴムや制震ダンパーが工場で製造される際、性能試験に第三者機関が立ち会い、生データ(ローデータ)がそのまま報告書に反映されているかを確認します。
2. 現場施工における非破壊検査の実施
耐震補強工事において、コンクリート内の鉄筋配置やアンカーの定着強度が図面通りかを、施工会社とは別の専門会社が検査します。
3. トレーサビリティ(追跡可能性)の確立
どの部材が、いつ、誰によって検査され、どの基準をパスしたか。これらすべての工程をデジタルデータで記録し、将来にわたって検証可能な状態(BIMとの連動など)にします。
「発注者としての責任」を果たすためのガバナンス
ISO 9001(品質マネジメント)やISO 31000(リスクマネジメント)の観点からも、重要工程における独立したチェック機能の構築は不可欠です。
- 「見積もり」に監査費用を組み込む: 第三者監査はコストではなく「保険」です。施工費の数%を監査費用に充てることで、将来の数億円のリスクを回避できます。
- セカンドオピニオンの活用: 設計・施工のプロフェッショナルとは別に、監査を主目的とした構造エンジニアをアドバイザーとして雇用します。
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実務担当者が「今すぐ」確認すべき3つのチェックポイント
- 「抜き取り検査」の実施要領: 施工計画書に、自社または第三者が立ち会う検査項目が明記されているか。
- デジタルデータの原本管理: 試験機から出力された生データが改ざん不可能な形式(PDFの署名付きやシステム直結)で提出されているか。
- 過去の不適合事例の共有: 過去に指摘を受けた箇所がどのように改善されたか、そのプロセスが記録として残っているか。
透明性は「最高の耐震性能」である
どんなに高価な免震装置を採用しても、そのデータが偽りであれば、建物は砂上の楼閣に過ぎません。
「信頼せよ、されど確認せよ(Trust, but verify)」
この原則に基づき、第三者監査を徹底することで、企業は「安全」という目に見えない価値を確かなエビデンスへと昇華させることができます。それは、不測の事態において自社を守る、最強の法的・社会的盾となります。
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