貴社が所有・管理されている工場、倉庫、またはオフィスビルが「旧耐震基準」(1981年5月以前に施行されていた建築基準)で建てられている場合、その建物は現在、目に見えない複合的なリスクに晒されています。多くの経営層や施設管理者は、耐震補強の必要性は認識しつつも、高額な費用や事業停止のリスクから、具体的な行動をためらいがちです。
しかし、旧耐震基準の建物が抱えるリスクは、単に「建物が倒壊するかもしれない」というレベルに留まりません。現行の「新耐震基準」とは、地震に対する設計思想そのものが根本的に異なっており、特に「人命保護」と「事業継続」の観点から、深刻な脆弱性を内包しています。
本記事では、築40年を超える貴社の建物に特有の構造的・非構造的リスクを明確にし、それに対する費用対効果の高い戦略的対策について、専門コンサルタントとして解説いたします。
「新耐震」と「旧耐震」の決定的な設計思想の違い
1981年の建築基準法改正を境に、日本の耐震設計は劇的に変化しました。この違いを理解することが、貴社が抱えるリスクの深さを知る第一歩です。
- 旧耐震基準 (1981年以前):
- 目標:**震度5程度の「中規模地震」**に対して建物が損傷しないこと。
- 設計思想:大地震(震度6強~7)が来た場合、人命の安全は担保しないが、倒壊は免れることを目指す。しかし、実際には大破・使用不能に至る可能性が高い。
- 新耐震基準 (1981年以降):
- 目標:**震度6強~7の「大規模地震」**に対して、倒壊・崩壊を免れること。
- 設計思想:大規模地震後も人命を保護し、建物の使用継続(または早期の復旧)を可能とすることに重点を置いています。
つまり、旧耐震の建物は、貴社の事業を停止させるレベルの損傷を、設計の段階から許容している可能性が高いのです。
旧耐震建物が抱える二重のリスク構造
旧耐震の建物は、以下の2つの主要なリスクによって、貴社の事業継続性を脅かします。
構造体の「粘り強さ」不足
新耐震基準では、地震のエネルギーを吸収し、建物が破壊に至るまでの時間を稼ぐ「粘り強さ(じん性)」が要求されます。しかし、旧耐震の設計では、この粘り強さが不足しているケースが多く見られます。
- せん断破壊のリスク: 柱や梁が垂直方向の力(せん断力)に対して弱く、突然、爆発的に破壊(脆性破壊)するリスクが高い。特に、工場や倉庫などで見られる、壁量が少なく、柱が太い建物はこの傾向が顕著です。
- 保有耐力不足: 大規模な揺れに対する建物の最大強度(保有耐力)が、現在の地震動レベルと比較して不足している可能性があります。この強度が不足すると、大規模地震時に建物が許容を超える変形を起こし、倒壊の危険性が高まります。
見過ごされがちな「非構造部材」の脅威
地震による被害は、構造体の倒壊だけではありません。旧耐震建物では、人命に関わる二次被害のリスクが高いのです。
- 天井・外壁の落下: 体育館や工場、大規模オフィスの吊り天井や、古い外壁材、内装材は、大規模な揺れに耐えられず落下・崩壊し、避難経路を塞いだり、中にいる従業員に致命的な損傷を与えたりする可能性があります。
- 設備・配管の損傷: 重要な設備や配管の固定が不十分な場合、地震で破断し、火災や水害を引き起こす二次災害(停電、製造ラインの停止)を引き起こします。これは、事業停止の直接的な引き金となります。
費用対効果の高い戦略的対策へのロードマップ
旧耐震リスクを解消するための耐震改修は、決して「全改修」だけが選択肢ではありません。貴社の事業継続目標に基づき、費用を最適化し、最大の効果を得るためのステップを踏むことが重要です。
- 信頼性の高い診断(二次診断): まず、建物の真の強度を示す**構造耐震指標($Is$値)**を、詳細な現地調査に基づき正確に算出します。この診断結果が、すべての改修戦略の客観的な根拠となります。
- 事業継続性の評価: 構造的な補強だけでなく、天井、設備、配管といった非構造部材の補強が、どの程度事業停止リスクを低減させるかを評価します。
- 段階的な対策: 全てを一度に行うのではなく、「人命保護」を最優先とし、その後「事業継続」に焦点を当てた段階的な補強計画を策定します。例えば、費用対効果の高い制震ブレースの設置や、非構造部材の軽量化・補強を先行させるなどが考えられます。
貴社の建物が、これらの旧耐震特有のリスクをどの程度抱えているのか、そして、具体的な耐震改修でどの程度の補助金が活用できるのかを、無料で迅速に把握することができます。
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企業価値を守るための最終的な問い
旧耐震の建物に対する対策は、単なる建築上の問題ではなく、貴社の社会的責任(CSR)と企業レジリエンスの問題です。大地震が発生した際、競合他社が事業を停止する中で、貴社だけが迅速に事業を再開できれば、それは計り知れない競争優位性となります。
従業員の安全、サプライチェーンの維持、そして社会に対する責任を全うするために、築40年超の建物が抱える「旧耐震」の真のリスクに対して、貴社はすでに、費用対効果が最適化された具体的な戦略的行動を開始されていますでしょうか?



