貴社が大規模建築物の新築または既存の耐震改修を検討される際、地震の揺れを低減する技術として、「免震構造」と「制震構造」の二大工法が候補に挙がります。どちらも地震のエネルギーに対抗する技術ですが、その作用原理、コスト、建物の応答は根本的に異なります。建物の用途(データセンター、病院、工場、オフィスなど)や事業継続計画(BCP)の目標に合わせた最適な工法を選択することなく導入を進めることは、過剰な投資や期待した効果が得られないリスクを伴います。この記事では、専門コンサルタントとして、免震と制震の技術的な違い**、それぞれのメリット・デメリット、そして貴社の用途に合わせた最適な工法を選択するための基準を技術的に解説**します。
地震力への対抗:作用原理の違い
免震と制震は、地震の揺れを構造体に伝わりにくくする技術ですが、その実現方法が根本的に異なり**ます。
- 免震構造(Isolation Structure):揺れを**「遮断」する原理**
- 原理: 建物の基礎と上部構造の間に、積層ゴムなどの免震装置を挿入し、構造体を地盤から構造的に分離します。地震の揺れのエネルギーを建物に伝達させず、免震装置の柔軟性でゆっくりと揺らすことで、建物の固有周期を大幅に長期化させます。
- 効果: 建物の加速度を50%~80%も低減させることが可能です。建物内部の家具や設備の損傷も大幅に軽減されます。
- 制震構造(Damping Structure):揺れのエネルギーを**「吸収」する原理**
- 原理: 建物の柱や梁の間にオイルダンパーや粘性体ダンパーなどの制震装置を設置します。地震の揺れが構造体に入ってきた後、ダンパーがそのエネルギーを熱などに変換して吸収**します。
- 効果: 建物の揺れ(層間変形)を30%~50%程度低減させます。免震ほど加速度は低減されませんが、建物の損傷そのものを抑える効果があります。
用途別に見る最適な工法の選択基準
建物の用途によって、重視すべき耐震性能が異なります。免震と制震の特性を比較し、最適な選択を行う必要があります。
- 免震構造が最適な用途
- BCP目標が**「機能停止ゼロ」や「即時機能維持」である施設に適しています**。
- データセンター・病院: 精密機器や手術中の機器の加速度を最小限に抑える必要があるため、揺れそのものの抑制を最優先できる免震が最適です。
- 既存の重要文化財: 既存の構造体に過度な負荷をかけず、揺れそのものを受け流すことで、構造体の保存を最優先できます。
- 制震構造が最適な用途
- BCP目標が**「人命保護と早期復旧」や「事業中断の最小化」である施設に適しています**。
- 超高層オフィス・ホテル: 免震の過大な変位が困難な高層で、長周期地震動や風揺れを効果的に抑制し、居住性を維持するために制震が選ばれます。
- 工場・物流倉庫: 広大な敷地での改修コストを抑えつつ、構造体の損傷を防ぎ**、生産設備の機能保持を図るために適しています。
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免震と制震の導入における課題と検討事項
工法を選択する際には、コストや設置場所に関する物理的な制約も考慮する必要があります。
- 免震構造の課題と対策
- 課題: 設置に広大なスペース(免震クリアランス)が必要で、既存建物の改修は難易度が高く、工期も長くなります。長周期地震動により過大な変位が生じるリスクもあります。
- 対策: 免震層に追加でダンパーを設置し、過大な変位を抑制するハイブリッド型の免震も検討されます。
- 制震構造の課題と対策
- 課題: 揺れの加速度は免震ほど低減されないため、サーバーなど精密機器の転倒・損傷リスクは残ります**。対策として、機器自体に対し免震台を設置する必要**があります。
- 対策: 制震装置の配置の最適化が重要です。建物の偏心率や揺れの特性を時刻歴応答解析でシミュレーションし、最も効果的な位置に戦略的に配置**します。
最適な工法を選択するためのロードマップ
貴社の建物にとって最適な工法を選択するためには、単なる工法の比較ではなく、事業とリスクを統合した評価が不可欠です。
- BCP目標と許容の揺れの設定:
- 戦略: 地震後に許容できる事業中断期間(RTO)と、機器が機能を維持するために許容できる最大加速度を明確に設定します。
- 専門家による比較シミュレーション:
- 戦略: 免震工法と制震工法を導入した場合の建物の応答(最大加速度と層間変形)を、想定される地震動でシミュレーションし、BCP目標を達成できるかを検証します。
- ライフサイクルコストの評価:
- 戦略: 初期投資だけでなく、メンテナンスコストや地震後の修復費用(PML値)を含めた****トータルな費用対効果を比較し、最適な工法を決定します。
貴社は、この免震と制震の真実を理解し、事業継続の目標を確実に達成する戦略的な工法**を、いつ、選択されますか?



