大規模な工場や倉庫の建設計画、あるいは既存施設の耐震補強を検討する際、設計図面に必ず登場するのが「H形鋼(エイチがたこう)」と「角形鋼管(かくがたこうかん)」という二大主役です。
一見するとどちらも頑丈な鉄の塊に見えますが、これらには「曲がりやすさ」「ねじれへの強さ」「地震エネルギーの吸収の仕方」において決定的な違いがあります。この部材選定の最適解を誤ると、大規模地震が発生した際に、ある特定の柱に損傷が集中し、建物全体が連鎖的に崩壊するリスクを孕むことになります。
本記事では、工場の構造的バックボーンを支えるこれら部材の特性差と、地震時の挙動の違いについて、専門的な視点から徹底解説します。
H形鋼と角形鋼管:形状がもたらす「強さの性質」の違い
鉄骨構造において、どの方向にどれだけの力がかかるかによって、最適な部材形状は異なります。
- H形鋼(H-beams):一方向の強さに特化した「梁」の王様
H形鋼は、アルファベットの「H」の形をした部材です。上下の平らな部分(フランジ)と、それをつなぐ中央の板(ウェブ)で構成されています。
- メリット: 上下方向からの荷重に対して非常に高い剛性を持ちます。そのため、工場の長いスパンを支える「梁(はり)」として最も効率的です。
- デメリット: 「ねじれ」や、Hの横方向からの力には比較的弱いという弱点があります。
- 角形鋼管(Boxcolumns):全方位の揺れに耐える「柱」の守護神
正方形や長方形の断面を持つ箱状の部材です。
- メリット: どの方向から力がかかっても均等に踏ん張ることができるため、地震の複雑な揺れを受ける「柱」に最適です。閉鎖断面であるため「ねじれ」にも圧倒的に強く、中層・高層の工場建築では主流となっています。
- デメリット: H形鋼に比べると、部材同士の接合(溶接)が複雑になりやすく、コストが割高になる傾向があります。
地震時の挙動:なぜ「損傷箇所」が変わるのか?
地震が発生した際、建物は巨大なエネルギーをどこかで「逃がす」必要があります。このエネルギーの逃がし方が、部材選定によって変わります。
強軸と弱軸のジレンマ
H形鋼を柱に使った古い工場(特に中小規模の工場に多い)では、Hの向きによって「強い方向」と「弱い方向(弱軸)」がはっきりと分かれます。
- リスク: 地震がHの横方向(弱軸方向)から襲ってきた場合、柱が簡単に折れ曲がってしまう「局部挫屈(きょくぶざくつ)」が起きやすくなります。これにより、特定の階だけが押し潰される「ピロティ崩壊」のような現象を招くことがあります。
角形鋼管の「粘り」と崩壊メカニズム
角形鋼管は全方向に強いため、特定の方向に弱いというリスクは少ないですが、強すぎるがゆえに「接合部(ボルトや溶接箇所)」に負担が集中しやすいという側面があります。
- 現代の設計思想: 柱を強くし、梁を先に変形させることで地震エネルギーを吸収させる「強柱弱梁(きょうちゅうじゃくりょう)」という考え方が、建物全体の倒壊を防ぐ黄金律とされています。
大規模工場特有のリスク:クレーンと積載荷重
一般のオフィスビルと異なり、工場には「天井走行クレーン」や「重量物」が常に存在します。
- クレーンの走行振動と疲労: クレーンが動くたびに、柱には繰り返し負荷がかかります。H形鋼の柱の場合、フランジとウェブの接合部に疲労亀裂が入りやすく、これが地震時の破断の起点になることがあります。
- 大空間ゆえの「ゆれ」の増幅: 柱の間隔が広い工場では、一つ一つの部材にかかる負担が極めて大きくなります。角形鋼管を使用する場合でも、内部にコンクリートを充填する「CFT構造」などを採用しなければ、巨大地震のエネルギーを受け止めきれないケースもあります。
貴社の工場において、「H形鋼の柱が細く、強度が不安だ」「以前の地震で柱の根元にひび割れが見つかった」という場合。最新の構造解析によって部材ごとの耐力を数値化し、地震時にどこが壊れるかのシミュレーションを知りたい場合は、無料で3分で完了する**「耐震ウェブ診断」をご利用**ください。
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部材特性を活かした「賢い耐震補強」のすすめ
既存の建物がH形鋼でも角形鋼管でも、それぞれの弱点を補う補強が可能です。
- H形鋼の柱への「カバープレート」補強: Hの開いている部分に鋼板を溶接して「箱型」に近づけます。これにより、弱点だった横方向への強さとねじれ耐性を劇的に向上させます。
- 角形鋼管への「炭素繊維シート」巻き立て: 鋼管の表面に高強度の炭素繊維を巻き付けることで、地震時の膨らみ(挫屈)を抑え、部材の「粘り」を強化します。
- 座屈拘束ブレース(BRB)の導入: 柱や梁を直接いじるのではなく、地震の力を肩代わりしてくれる「身代わり部材」を設置します。これにより、主構造(柱・梁)の損傷をゼロに抑えることが可能になります。
結論:部材選定は「建物の寿命」と「安全」の設計図
工場の部材選定は、単なる材料選びではありません。それは、**「巨大地震が来たときに、建物のどこを犠牲にし、どこを死守するか」**という戦略そのものです。
H形鋼の経済性と一方向への強さ、角形鋼管の安定性と多方向への耐力。それぞれの個性を正しく理解し、適材適所で活用(あるいは補強)することが、激甚化する自然災害から企業の生産基盤を守り抜く唯一の道です。
貴社は、この**「部材の個性の違い」が招くかもしれない将来の損傷リスクを、科学的に評価し、地震後も即座に稼働できる工場**を、いつ、実現されますか?



