24時間365日、止まることが許されないデータセンター。ITインフラの心臓部であるサーバーラックは、建物の強固な構造によって守られていると思われがちです。しかし、実際にサーバーが鎮座しているのは、コンクリートの床(スラブ)の上ではありません。その多くは、配線や空調ダクトを通すための「フリーアクセスフロア(二重床)」の上に浮かんでいる状態にあります。
地震が発生した際、建物本体が無事であっても、この「床下空間」の耐震対策が不十分であれば、サーバーラックは転倒し、ケーブルは引きちぎられ、企業の生命線であるデータは一瞬にして失われます。本記事では、データセンターの安全性を左右するフリーアクセスフロアの耐震固定と、床下空間の構造的リスクについて徹底解説します。
二重床という「脆弱な足元」:地震動がもたらす致命的リスク
フリーアクセスフロアは、高さ30cmから、時には1m以上の支柱(ペデスタル)によって床パネルを支える構造です。この構造は利便性に優れる反面、地震時には極めて複雑な挙動を示します。
- ペデスタルの屈曲と座屈
地震の水平方向の揺れ(加速度)が加わると、細い支柱には巨大な曲げモーメントが発生します。
- リスク: 支柱が折れ曲がる、あるいは床パネルが支柱から脱落することで、その上に載っている数百キログラムのサーバーラックがドミノ倒しのように崩壊します。
- 2. 「共振」による揺れの増幅
建物自体の揺れ周期と、フリーアクセスフロア+サーバーラックという「二次構造物」の揺れ周期が一致した場合、共振現象が起きます。
- 結果: 床上の揺れは地上階の数倍に増幅され、免震構造の建物であっても、床下の固定が甘ければラックが激しく衝突し合い、内部の精密機器(HDDやSSD)が物理的に破壊されます。
サーバーを守り抜く「耐震固定」の最新技術
データセンターの継続稼働(BCP)を実現するためには、床パネルそのものの強度だけでなく、支柱とスラブの「固定」が重要です。
- 高耐震ペデスタルとボルト固定 一般的なオフィス用の接着固定ではなく、コンクリートスラブにアンカーボルトで直接固定する高耐震仕様の支柱が必須です。さらに、支柱同士を横方向の部材(ストリンガー)で連結し、ジャングルジムのような「枠組み」を作ることで、水平方向の剛性を劇的に高めます。
- ラックの直接固定(ペデスタル貫通工法) 最も確実な方法は、フリーアクセスフロアのパネルを介さず、サーバーラックの足を床下のコンクリートスラブまで伸ばして直接ボルト固定する工法です。これにより、フロアの崩壊リスクからサーバーを完全に切り離すことが可能になります。
空調効率と耐震性のジレンマ:床下の「空気の流れ」を邪魔しない設計
データセンターの床下は、サーバーを冷却するための「冷気の通り道」でもあります。
- 耐震補強の壁が招く熱溜まり: 耐震性を高めるために床下に補強壁やブレース(筋交い)を入れすぎると、空気の流れが遮断され、サーバーがオーバーヒートを起こす原因になります。
- 解決策: 空気抵抗の少ない丸形支柱の採用や、気流シミュレーションに基づいた補強配置の最適化が必要です。構造エンジニアと空調エンジニアの連携こそが、データセンター特有の難課題を解決する鍵となります。
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床下配線の「断線」を防ぐ:余裕長とフレキシブル設計
建物が揺れる際、サーバーラックと建物の壁の間には相対的なズレが生じます。
- ケーブルの「遊び」の重要性: 床下からラックへ繋がる電源ケーブルや光ファイバーに十分な「遊び(余裕長)」がない場合、地震の揺れによってケーブルが引き抜かれたり、断線したりします。
- 免震床の採用: 建物全体が免震でない場合、サーバーラックが載るエリアだけを免震台(アイソレータ)の上に配置する「部分免震」も有効です。この際、床下から免震台へ繋がる配線は、揺れを吸収するフレキシブルな配管設計が求められます。
結論:データセンターの安全性は「目に見えない空間」に宿る
データセンターの耐震対策において、地上に見えているサーバーラックの外観を整えるだけでは不十分です。真のレジリエンス(復旧力)は、フロアパネルの下、暗くて狭い「床下空間」の強靭さによって決まります。
支柱一本の固定強度から、空調と構造のバランス、そして配線の余裕長まで。「点」ではなく「システム」として床下空間を捉え直すことが、デジタル社会の基盤を守るプロフェッショナルの責務です。
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